岩手県一関市にある北上川支流、砂鉄川の中流に位置する「猊鼻渓」。約2kmに渡って100m超の断崖絶壁がそびえ立つ。奇岩や洞窟が両岸に迫り、インパクト溢れる景観の深山幽谷だ。県内では初めて名勝指定された。この地における名物と言えば、船頭が棹一本で巧みに操り船を漕ぐ舟下りだ。春は岩肌にぶら下がる藤の花やゲイビセキショウ、秋には鮮やかな紅葉に染まる。冬は船内のこたつで名物を食しながら、水墨画のようなモノトーンの景観を愛でる「こたつ舟」が運行。時期によって自然の表情が移ろい、四季折々の風情が味わえる。
また、秋の月夜に楽しむふたつの舟下りも人気が高い。ひとつは中秋の名月に運行する「お月見舟」。夜の静かな渓谷で川の音を聴きながら、ただ名月と向き合う神秘的かつ贅沢な時間が堪能できる。もうひとつは「十六夜コンサート」で、渓谷の岩肌や水面を照らす月明かりの下、演奏会を楽しむ催しだ。船内では津軽三味線やフルート等、人が奏でる旋律に耳を傾けながら、演奏舟と観客席の2隻で川下りが堪能できる。奏でられた音色が岩に反響し、月夜が創り出す舞台演出のように盛り上げる。運行コースは同じだが楽しみ方が異なるため、どちらもファンが多い人気の風物詩だ。